「なぁ、今回のハントが終わったら言いたいことがあるんだ」 「言いたいこと?」 わたしが尋ねると、少し照れくさそうに笑う。 「あぁ」 「いいわよ。なら、今回のハントもついて行っていい?」 「え」 目に見えすぎるほど狼狽してる。なんだか、かわいいかもと思ってしまう。 おかしいよね。わたしより年上なのに。 「わかったよ、でも……」
最近。ううん。わたしが『記憶』を失ってからよく見る夢。 一緒に話している男の人の顔はいつも見れない。 そこだけ妙に霞がかかってはっきりとはわからない。 顔は見えるはず。その人がどんな表情をしているのかはっきりとわかるのに。 でも、わからない。 あなたは誰?
わたしが記憶をなくして数日たった。 あれから、いろいろ検査とかして。わたしがなくした記憶の種類をちゃんと確認してみた。 どうやら、わたしは帝国を裏切った後からの部分がスッポリ抜けてるみたい。 だから、ティナたちのことはわからなかった。 ティナたちと会っていたところは完全に抜けている。 そして、あの人のことも。 いつもわたしを切ない顔で見るあの人。『ロック』って言ってた。 ティナが言うには、わたしとその人は一緒に暮らしていたみたい。 って言っても、ここモブリズでティナたちの手伝いをしている今だけだけど。暮らしているって言っても、ティナも一緒の家に住んでいてそこに寝泊りさせてもらってくるだけだから、二人きりではないし。 エドガーも一緒に住んでる。 本当は城に帰るべきなのに、わたしの記憶がないのが原因でここにいてくれてる。 心配させてる。 記憶があったら、こうはならなかったはずなのに。 わたしに、記憶がないからみんなを心配させてる。 記憶が……ちゃんとあったら……。
「二人とも、魔物だ!」 え? いつものようにティナと他愛のない話をしていたら、突然エドガーが入ってきて叫ぶ。 「魔物?」 わたしが呟いている間にティナの方は素早く行動する。 立ち上がったかと思うと、タンスに駆け寄り荒々しく開けると中から二つの剣を出した。 「セリス! ……は、戦える?」 ティナが躊躇してわたしに尋ねる。 「戦うって」 確かに、記憶を失う前のわたしならそうしていたかもしれない。 記憶を失う前のわたしは、ティナたちと一緒に旅をしてケフカを倒したらしい。 でも、今のわたしは……。 「あっ、無理しないで。とりあえず行ってくるね」 それだけ言って、ティナは剣のうち一つを持って部屋を出て行った。 「セリス。無理は、しないでいいから」 エドガーもそれだけ言うとティナの後を追っていく。 わたしだけが、取り残されている? 窓の外を見ると、町の人たちがたくさん逃げている。 その中を、ティナとエドガーが波に逆らって走っていく。その先に、魔物がいる。 魔物がいて、この町を襲っている。そう思うだけで、体が熱くなって焦る。 わたしも何かしなくちゃいけない。わたしも、戦わなくちゃ。 でも、足がすくむ。きっと前のわたしならこんなことないのに。前のわたしなら。 「ティナ! 魔物、が」 勢いよくはいって来たものの、その人はわたしの姿を見ると言葉を止める。 「えっと」 すごく困ったような、所在なくしている。 「ティナならさっきエドガーと一緒に」 「あぁ。そっか。んじゃ」 そう言って、その人はわたしに背を向ける。 駄目。こんなことじゃ、なにもできない。 「待って!! ロック!」 ハシッと。上着の裾を掴む。 「え?」 「お願い、わたしも連れて行って」 ティナが出していた剣を思い切り握り締め魔物のところへと向かう。 ロックが言うのには、そうやら魔法という存在はなくなっても、魔物はまだいるらしい。 だからこうして時々町を訪れて破壊行動に移ったりする。 そうやって、わたしがわからないことを話すロックは、相変わらずどこか寂しそうで。 わたしはそんなロックを見ると、胸が締め付けられる。 どうしてそんな顔をするの? どうしてそんなに切なそうな顔なの? わたしが悪いことをしているみたいで、悲しい。と、思ってしまう。 魔物のところに行くと、ティナたちはすでに戦っていた。 道にはすでに倒してある何体かの魔物の死体。 魔物の死体は一つずつ、役目を終えたかのようにゆっくりと白い煙を出しながら消えていく途中だった。 ティナたちが対峙しているのは、この魔物たちを率いていたらしいふたまわりほど大きな魔物。 牛みたいな顔に、ピラミッドみたいに三角の形にちかい体をした魔物。 角に電撃を走らせている。 あんなのと、戦っているの? ここまで来て、足が震えだした。 剣を握る手に、さらに力がこもる。 剣を鞘から抜いて、戦わなきゃ。このままじゃ、なんのため来たのかわからない。行かなきゃ。行かなきゃいけないのに。 「セリス?」 ロックがわたしを呼ぶ声が聞こえる。でも、顔をそちらへ向けることもできない。 体が固まって、どうしようもない。 どうしよう。どうすればいい? わたし、わたし……。 「セリス、危ない!!」 「え?」 声は聞こえるけど、体は反応できずにいる。 そしたら、わたしの体は突然横に飛ばされて頭を軽くぶつけた。 そのおかげというべきか、わたしは体がやっと動くようになった。 体を起こすと、わたしに覆いかぶさっているロックがいた。 「え?」 ロックは背中に引っかき傷をおい、苦しそうな顔をしていた。 「ちょっと待って」 ロックがわたしを庇う? ロックの背中からは紅い血が流れてきて、止まらない。紅い、紅い血。 「いっ。イヤー!! ロック、ロック!! ティナ! ロックが、ロックが!!」 それ以上の言葉が話せず、それ以上は何も言えず。わたしはただ呼び続けた。叫び続けた。 「いってぇ」 バシッと、いい音がしてロックは痛そうに顔を歪める。 「もっと優しくしねぇ? ティナ」 「大げさよ。旅に出ていたころはもっと大怪我しても大丈夫だったでしょ」 「いや、限度があるだろ」 「まぁ、セリスを怖がらせた罰だと思いなさい」 そうピシャリと言うと、ティナは救急セットを持って部屋の外に出てしまう。あとには、わたしたちだけ残った。 「あっと。その、大丈夫か? セリス」 ロックが言いにくそうによどみながら言葉を紡ぐ。 でもわたしはうまく言葉を返せない。 「その。悪かったな。怖い想いをさせて」 怖い? 違う。 「魔物とか、血とか。その、見慣れないだろうし。特に。記憶をなくしてる今なら」 『記憶をなくしてる今なら』。 「昔なら」 「えっ?」 「記憶をなくす前のわたしなら、あなたにこんな怪我をさせなかった?」 言った瞬間。ロックが後悔したような、しまったというような複雑な顔をした。 とても正直な、嘘のつけない人。 「ごめんなさい」 言いながらロックに近づいて、背中に手を当てる。 それが痛かったらしく、少し顔をゆがめる。 包帯ごしに伝わる温かさ。この人が、生きている証拠。 「ごめんなさい。わたしのせいで」 傷のないところに顔をつけ、静かに呟く。 目の辺りが熱くなってきて、悲しくなる。 わたしのせいで、この人はこんな怪我をしてしまった。 わたしにちゃんと記憶があって、ちゃんと魔物から身を守れたらこんなことにはならなかった。 わたしにせいで。わたしがこの人を、傷つけたー―。 「ごめんなさい。本当に、わたし」 「セリス」 ロックが呟く。 「わたしに、ちゃんと記憶があったら。そしたらこんなことには……」 「いいよ。そんな」 「よくない!」 「……」 「わたしに記憶があったら、魔物だってちゃんと倒せた。わたしに記憶があったら。わたしに」 記憶があったら。こんなにもどかしい想いをしなくてよかった。 もどかしい。悔しい。悲しい。 この人をこんな目に合わせてしまった。 ただでさえ、この人に悲しい顔をわたしはよくさせる。 それが、記憶をなくしたせいだというのもわかっている。 もうこれ以上、この人を悲しませたくない。だって、だって? わたし、一体。 「記憶。取り戻したいか?」 「え?」 突然の言葉に、わたしは顔を上げてロックを見上げた。 いつもより近いところに顔があって、なんだか体が熱くなる。どうして? 「お前が記憶をなくしてから、考えていたんだ。どうやったら、戻るんだろうって」 「……うん」 「でさ、シド博士に会ったらどうにかなるかなって思った」 「へ?」 「っていっても、ただの思いつきで本当にどうにかなるとか根拠とか全然ないんだけど。でも、とりあえず行ってみないよりはマシかと思ってさ」 少し顔を赤くして一生懸命話している。 男の人なのに、少しかわいいと思ってしまう。 こんな時に、不謹慎。だよね。 「どうする?」 ロックがやっぱり恥ずかしそうにわたしの顔を見る。 『シド博士』。 どこかで聞いた事のある名前。そうだよね。だって、ちゃんとその人は覚えてる。 わたしを、自分の本当の子どものように接してくれた優し人。そして、帝国の研究所にいた科学者。 その人に会えば、わたしの記憶は戻るかもしれない。 どうやって戻るのかわからないけど。でも、会わないよりは会った方が。行動をうつさないよりは、うつしたほうがいい。しれで少しでも記憶が戻るのなら。それで、この人を守る事ができるのなら。 「行く。博士に、会ってみる」
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