「あなた、誰?」 わたしの言った言葉に、この場にいる全員が固まったような感じがした。 ただ一言。そんなに固まるほどのことを言ったつもりはないけど。どうしてこんなに冷たい空気になるの? わたしの目の前にいる青いバンダナをつけた黒髪の男の人は、これ以上ないというくらいに目を開いてわたしの顔を覗き込んでいる。 なんだか、悪い事をした気になって。この人、こわい。 「え?」 他にも何か言おうと口をパクパクさせている。 この人、何? 「ちょっと、セリス。冗談きついよ?」 緑の髪をした、ポニーテイルの優しそうな女の人が後ろからぎこちない笑顔でわたしに話し掛けてくる。 『セリス?』 「それが、わたしの名前?」 自然とでた自分の言葉に驚き呆れ、そして焦る。 わたし、何言っているの? 名前? セリス? 考えて。この目の前にいる男の人は誰? その後ろにいる女の人と、金髪で長髪の男の人は誰? みんな心配そうにこっちを見てる。 なら、知り合いのはずよね。 なのに、どうして名前が出てこないの? どうして? ちょっと待って。 わたしは、わたしは……わたしは? 焦りだけが込み上げてくる。 頭の中がグルグルしてくる。 何? どうなっているの? わからない。これは何? 誰? わたし、どうしたの? わたしって、何? 頭が痛い。割れそうなくらいにがんがんいってる。 なんで? わたし、どうしちゃったの? 「セリス!」 遠くで声が聞こえる。 こんな光景、知っている気がする。 でも、思い出せない。 そして、わたしの視界は白く、黒くなっていった。
「危ないロック!!」 そう言って、わたしは誰かの前へと飛び出した。 その人をかばって、目の前には敵が振り上げたこぶしをおろそうとしていたところだった。 「セリス!!」 また聞こえたその声。 あなたは誰? わたしが名前を呼んだその人は、わたしの……ナニ?
「記憶喪失ね」 目の前で、緑色の髪をした女の人が少し悲しそうな顔でこちらを見る。 もう一度目が覚めて、この女の人にいろいろな質問をされて。わたしは、自分に記憶がないことを確認した。 やっぱり、ないんだ。記憶。 「セリス。本当に、俺のことも」 バンダナのした人が近づいてきて、わたしは少し後ずさりしてしまう。 この人のこの目が怖い。 なんだか、責められているような気がする。 どうして? 「ロック。気持ちはわかるけど。落ち着け」 金の髪の人が優しく言って、『ロック』って男の人はさらに悲しそうな顔になった。 「あの……。わたし、わからないことが、その。いろいろあって」 助けを求めるように、緑の髪の人を見た。 その人は柔らかく笑うと、わたしの隣に静かに座った。 「そう、よね。あなたは記憶がないんだもの」 「ティナ」 金の髪の人が少し目を見開いた。 一体何? 「わたしはティナ」 「俺はエドガー」 そういって金の髪の人が軽くウィンクをした。 なんだか、軟派な感じの人? 「一応フィガロの王様かな」 ティナ、さんが付け足すように言う。 「王様? フィガロの?」 「まぁ、肩書きはね。実際、そんな偉いやつでもなんでもないから。気楽にしておくれ」 気楽って、いわれても。王様でしょ? そんなすごい人と気楽って言われても。無理でしょ。やっぱり。 「へぇ。フィガロっていう国があるのは知ってるんだ?」 少し驚いたように、エドガー様? は言った。 「えっと。それはどういう……」 「あぁ。別に君を馬鹿にしているわけじゃないよ? ただ、記憶がないって言われても、どこからどこまでがあって、どこからどこまでがないのかが俺にはわからないからね」 そんなの、わたしにもわからないよ。 気がついたら、ここにいて。周りには知らない人ばかりで、どうしてこうなったのかもわからないし。 もう、頭の中ぐちゃぐちゃで。 「エドガー。言い過ぎ。今セリスはすごく不安なんだからそんなこと言っちゃだめなの」 「あぁ。すまない」 エドガー様が本当に申し訳なさそうな顔をする。 「いえ。大丈夫です。気にしないで下さい。エドガー様」 「え?」 「え?」 ティナさんがきょとんとした顔をした。 何か変なこと言った? 「エドガー」 「様?」 ティナさんの後に続いてバンダナを巻いた男の人が言葉をつなげ、次の瞬間。 「ははははは」 「あははははは」 と、二人して吹き出してお腹を抱えて大爆笑。 なんだか、恥ずかしなってうつむいてしまう。 そんなにおかしなこと言った? 「こらこら。それこそセリスに失礼だろ? それと俺にも」 苦笑いしながら二人にむかって言葉を放つ。 「あの。わたし、おかしなこと言いました?」 「ん? いや。ただ、俺と君は一応知り合いということになっているんだ。だから、様呼ばわりは不自然に聞こえる、といったとこかな」 「はぁ」 王様なのに、不自然なんだ。 それ以前に、王様と呼び捨てにできるほどの知り合いってわたし本当に何者? 「それより、ロック。自己紹介はいいのか?」 エドガー……がそう言うと、笑いを必死に抑えてバンダナの人が真っ直ぐこっちを見た。 その真剣さが、どこか怖い。 「あぁ。俺はロック」 「ロック?」 「そう。……なぁ、お前本当に……」 まで言って、ロックって人は苦しそうな顔をして、言葉を切った。 この人は、わたしとどういう関係なの? どうしてそんなに、わたしに切ない顔を見せるの? わたしとこの人は、どんな関係なの?
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