「帝国の兵士だってな。心配はいらない。
フィガロはガストラ帝国と同盟国だ。
しばらくゆっくりしていくといい。
それに私はレディを傷つけるつもりはない」
「なぜ わたしに良くしてくれるの?
私のこの力が」
「まず君の美しさが心を捕らえたからさ。
第二に君の好きなタイプが気に掛かる・・・
魔導の力のことはその次かな。
「・・・・・・・?
どうしたの?」
「私の口説きのテクニックもさび付いたかな?」
それが彼とわたしの最初の言葉だった。
普通の女の人なら、彼の言葉を聞いて何か思うらしい。でも、わたしには彼が何を言っているのかよくわからなかった。
それは、わたしが人ではないからなの?
冷たい空気が体を吹き付けてくる。
この雪道を登った先に、氷付けにされた幻獣がいる。そして、わたしたちはその幻獣を帝国から守るためにこれからケフカと戦う。
でも、わたしにはなんだかまだ実感がわかない。
みんなに言われるままこの力を貸してきて、今は自分の意思でみんなに協力している。
みんな、大切なもののために帝国と戦っている。
でも、わたしにはよくわからない。
大切なものって、何?
あの時の言葉がわからなかったわたしにはわからないの?
「生まれながらに魔導の力を持つ娘…。こんな形で再会するとは…」
上から声が降ってくる。
見上げると銀世界に映える金の髪を揺らし、冷たく青い瞳でこちらを見ている女の人がいた。
確か、わたしと同じようにロックに連れられてきた帝国の人……。わたしと同じように、魔法を使える女の人。名前は、セリスさん。だった気がする。
セリスさんは、わたしをしげしげと見てくる。見定めるように。
「あなたも、魔法を? でも私とは少し違う…」
そうロックが言っていたはず。あまり、自信はないけれど。
「私は幼い頃に、人工的に魔法の力を植え込まれた。帝国の人造魔導戦士だ」
冷たい目でそれだけ言う。
人工的に? じゃあ、わたしとは違う。
わたしは、幻獣と人間の子ども。同じ帝国にいたけれど、セリスさんとは違う。じゃあ、セリスさんならわかることもあるの?
「人を愛する事はできるの?」
「??? からかっているのか?」
怪訝な顔をして、セリスさんはわたしに背を向けて歩き出した。
金の髪は風に舞うけれど、しっかりした足取りで先に歩くみんなの下へと向かうその姿は、とても堂々としている。
あんな風にどうどうとしていたら、こんなに悩まなくてもいいのかな?
帝国で将軍として過ごしていたって言っていたっけ。
わたしは、帝国で何をしていたんだろう。
あまり考えたくない。
「待って。あの、セリスさん」
慌てて後を追いながら声を出す。
わたしの声を聞くとセリスさんは立ち止まり振り返った。
「セリスでいい。さんは余計だ」
少し、顔を赤くしたように答える。
「セリス?」
「その方が、慣れている」
それだけ言うと、体ごとこちらへ向けた。
「何の用だ? 早く行かないと置いて行かれるぞ」
「あの。聞きたいことがあって」
「後じゃいけないのか? これから戦うというのに」
それもそうだと思う。
戦う前なのに、こんなにゆっくりしていて。
でも、今聞いてみたい。
「でも……」
わたしが躊躇っていると、セリスはため息を一つついて、前にいた人に何か言って先に行ってもらった。
ごめんなさい。と、小さく呟く。
セリスはどこか不機嫌そうに顔を歪める。
「謝ることじゃないだろう。ティナ、でいいか?」
「ええ」
「それで、何のようだ」
青い目にがわたしを睨むように見てくる。
「えっと」
どこか、怖いような気がする。でも、これが将軍の威厳?
こんなわたしに気がついたのか、セリスが顔をしかめる。
「どうかしたのか?」
「ううん。なんでもない」
慌てて首を振って言葉をつむごうとしても、何から言っていいのかわからなくなる。
聞いてほしいことはあるのに。
「……わたしのことなら気にするな」
「え?」
「わたしは……その。実はティナのように同じくらいの女の人と話したことがあまりないんだ。まわりは男ばかり。だから」
こんな態度と話し方なんだ。
と、少し赤くなりながらわたしに話してくれる。
それを聞くと、何だかセリスがかわいいと思ってしまって、吹き出してしまう。
「笑うな!」
強い口調で言うけど一回知ってしまったら、もうなんとも思わない。
セリスは、わたしとは違うけど。でも、わたしとどこか似ている。そんな気がする。
まだ、どこが似ているのかはわからないけれど。でも、似ている気がする。
だから、セリスになら話せる。わたしと同じ女だし。
「ごめんなさい」
わたしが言うと、セリスは怒ったような顔で横を向く。
「あのね。わたしが聞いてほしかったのは。エドガーのことなの」
「あの、フィガロの国王か?」
眉を片方不快そうにあげながらこっちに顔を向きなおしてくれた。
「うん。初めて会ったときに言われた言葉があるの」
「言葉?」
「うん。でもね。それ、普通の女の人なら何か思うはずなんだけど。わたしは何も思わなかったの。それどころか、言われている意味がわからなくて……」
徐々に声のトーンが下がり、うつむいてしまう。
そして、少し周りが静かになる。聞こえるのは吹き付ける風の音だけ。
後ろで括った髪が風に吹かれて揺れる。肌には白い雪が時々張りつき、そして溶けていく。
「……だから?」
「だから。わたしってやっぱりおかしいのかなって」
人間じゃないから。何も思わないのかもしれない。
「別にやつに何か言われて何も思わないやつは他にもいるだろ?」
思わず顔を上げてセリスをみつめてしまう。
「え?」
「ティナが何も思わないからって、落ち込むことはない」
「そう、なの?」
「何を言われたかはだいたい想像つく。しかし、わたしもきっとティナと同じ、言われても何も思わないだろう」
「そうなの、かな」
わたしが幻獣であるとかそんなの関係ない?
じゃあ、わたしはそんなにおかしくないのだろうか?
「でもわたしは幻獣とのハーフで」
「らしいな。だから?」
「だから、愛するっていうことがよくわからなくて」
「それは別にハーフは関係ないだろう」
「え?」
でも、人間ならば愛するって感情がちゃんと理解できるはず。
みんな人間だから、大切なものを守るために帝国と戦っている。でも、わたしにはそこまで大切と思えるものがまだない。だから、わたしはおかしいのかもしれない。ハーフだから……。
「操りの輪で操られていたのだろう? それに、本当に愛がどうとかっていうのは自分がまってみないとわからないものなんじゃないのか?」
セリスはわかるようなわからにような事を言う。
「よく、わからない」
「なら別にどれでもいいんじゃないのか? 第一、どうしてそんなにわかろうと焦るんだ?」
どうして?
そんなこと考えてもなかった。
ただ人間と幻獣のハーフだということへの気持ちから?
それとも……他に何か?
セリスのその疑問に答えられないまま、わたしたちは歩き出した。時には走って、時に早足でみんなの後を追い、わたしたちは合流した。
その時、エドガーがわたしの方に来てどうしたのか聞いてきたけど。とくに言うことじゃなかったから、何も言わなかった。
エドガーは、何かとわたしを気遣ってくれる。その度にどうしてか不思議に思っていたけど。よく見ていると、女の人には基本的に気を遣う人だというのがわかってくる。
だから、わたしにも気を遣うだけ。他の人たちと一緒。
そこまで考えて、なんだか胸が痛くなってイライラした。
なんで?
「いやあぁ!!」
「幻獣とティナが……」
遠くでマッシュが呟く声が聞こえる。
見るとわたしの体は光りだして、頭の中には何かが流れ込んでくる。
いや、何も、考えられなくなる……。
「反応しているのか!?」
エドガーが驚いたようななんだかよくわからない顔でこちらを見る。エドガーだけじゃない。他のみんなもわたしを見ている。
「何!? この感覚!?」
体の中から何かが弾けそうな。わたしの体だけど、わたしの体じゃないような、変な感覚。こんなの、初めて……。
「えっ? 何、今なんて……」
頭の中に流れ込んできた声。これは、幻獣?
聞こえるけど、聞こえない。微かな声。でも、幻獣ならわたしのことを知っているの?
「ねえ、教えて! 私は誰? 誰なの?」
でも、答えは返ってこない。
「ティナ!」
ロックが叫び、わたしに近寄るとする。
「幻獣と…反応するというの・・・・・!」
セリスの驚く声。
「ティナ…幻獣から‥離れろ・・・・」
わたしの体から溢れ出した何かに当てられてエドガーは倒れてしまう。
それでも苦しそうに声を出すエドガー。
どうして、そんなにわたしを気遣うの? わたしが女だから? じゃあ、わたしは他の人たちと同じ? もしかしたら、わたしが仲間だから? 協力しているから?
わからない。
エドガーが何を思っているのかがわからない。
でも、わかりたい……。
「だ…め」
もう駄目。あふれ出る力をこれ以上抑えておけない。
「――!!」
声にならない声をあげると同時にわたしの体から力が飛び出し、何もかもが飛び出した。
そして、頭が白く、白くなっていく。
意識がなくなる寸前に聞こえたのは、エドガーがわたしの名を叫ぶ声、それだけだった――。
〜後書き〜
少し、いえ。まぁ、とりあえず遅れてしまいましたがティナの誕生日記念です!
とはいえ。なんだかめでたいはずなのに、暗い話になってしまいました。
えっと。エドティナ。というよりはセリスとティナ?(爆)
友情メインとなってしまいました。まだ恋愛感情はいる手前ということで…・・・。
でもわたし的には初エドティナです!
えっと。今回の埋め合わせに、明るいラブラブなエドティナを書こうかとは思っています……。
2005年10月19日アップ
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