〜白 雪 姫〜



 ――昔々、あるお城に絹のように細く、美しい緑の髪に透き通るような碧の瞳、白い肌、赤い唇といった大変美しいお姫様がいました。
お姫様は、その白い肌から白雪姫と呼ばれるようになっていました。
 白雪姫はとある事情は7人の小人たちと一緒に暮らしていました。
 これは、その白雪姫に関するお話――


「鏡よ鏡。この世で一番綺麗なのはだぁれ?」
 腰まで伸びた金の艶やかな髪を揺らし。氷のように蒼い目で鏡を見つめるこの国の后。
 鏡は后の呼び声に応え、中央に渦を作り徐々に人の形を作っていきました。
「お后様は美しい。でも、山を越えた所に住む白雪姫のほうがもっと美しいゾイ」
 鏡の中のお爺さんが嬉しそうに答えました。
 それを聞き、后は目を細くして鏡を見据えました。
「白雪姫は暗殺者が始末したと報告を受けたが」
「そんなのは誤魔化しゾイ。暗殺者シャドーは白雪姫を7人の小人の所へ逃がしたのじゃ」
「そう」
「ちなみにその小人の中にはわしのかわいい孫もおってな」
 鏡はその後も孫についてのかわいさについて話していましたが、后は聞く耳持たず。白雪姫暗殺計画を練るのでした。

 さて、白雪姫はというと。今日も小人と楽しく遊んでいました。
「でさ、俺がそこですかさず魔物の後ろに潜り込んで切りかかると」
 白雪姫の前では、バンダナを巻いた男の小人がナイフを片手に冒険談を語っているところでした。
 白雪姫はそんな小人を微笑ましそうに見ていましたが、その表情には少し陰りが見えました。
「どうかしたでござるか?」
「え?」
 白雪姫が見ると、髭をはやした小人が刀の手入れをしながら座っていました。
「浮かない顔をしていたでござる」
「そんな……」
「仕方ないよぅ。ロックのつまらない話を聞かされてるんだもん」
 キャンパスをじっと睨んでいた女の子の小人が顔を上げて白雪姫に話し掛けました。
「なんだよ! 俺の話はつまらないっていうのかよ!」
 ロックと呼ばれたバンダナをつけた小人が女の子の小人に言葉を飛ばすが返って来たのは赤い舌だけだったのです。
「なにっ」
「ガウはおもしろいぞ! ロックの話!」
 どこからともなく現われ、ロックの頭に飛び乗ろうとするが二人の体格が似ているため共に床に転がってしまいました。
 跳びついた上半身裸の小人は屈託の無い笑いを浮かべて床に手足をつけて座りました。まるで猫が座るように。
「何やってんだ? お前ら」
 顔に傷をいくつもつけた小人が床に倒れているロックを見て呆れて呟きます。
「うるせい」
 ロックは起き上がると、ナイフを拾い椅子に座りました。
「ごめんなさい。心配させてしまって」
 白雪姫が顔を伏せがちに呟いたのです。そして、話を始めました。
「実は、義母様(おかあさま)のことで。考えているの」
 白雪姫がそう言うと、一同に緊張が走りました。
 みんな、白雪姫を殺そうとする后のことをあまり良く想っていなかったからです。
「何をでござるか?」
「どうして、わたしを殺そうとしたんだろうって。もしまたわたしを……」
「大丈夫! 俺が守ってやる!!」
 白雪姫が言い終える前に、ロックが胸を張って言葉を遮りました。
 それを聞き白雪姫は目を丸くしました。
「でも」
「ってか、ロックそれ。前にこの森で倒れていた金髪の綺麗な女の人にも言ってたじゃない」
 女の子の小人が溜め息混じりに言いました。
「リルム。うるさいなぁ」
「その人は次の日にはいなくなってたけど。ちょっと、無闇にいいすぎじゃないの?」
「いいんだ! 俺は守ると言ったら必ず守る!」
 ロックは半ば意固地になってリルムの話を聴こうともしません。
 そんなロックの態度に、リルムは溜め息を更につきました。
「まぁ、ロックの話は置いておいて。姫さんはここにいるといい」
「セッツァ―!」
 そう呼ばれた顔に傷がたくさんある男の小人が、近くにあった酒を飲みながら言いました。
「俺たちはあんたを気に入ってるんだ」
「ガウ姫好き!」
「でも、もしわたしのせいで迷惑が……」
「大丈夫でござるよ。拙者らは、そんなにやわではござらぬ」
「カイエン……。みんな……ありがとう」
 白雪姫がそう言って頭を下げたときです。
 バンッ。
 と、突然ドアが開き。小人たちは皆身構えました。
「ガハハ。さぁ、仕事に行くぞ! みんな!!」
 大きなよく通り声を出し、ズカズカと筋肉がよく出ている少し大柄な小人が入って来ました。
 その小人は肩につるはしを担ぎ、仕事への支度はバッチリでした。
「いいタイミングで入ってくるな。マッシュ」
 セッツァ―が呟き、皆は一斉に笑いました。
 なぜ皆が笑っているのかわからないのはマッシュだけ。
 何だか少し寂しいようなマッシュでした。




「できた。このリンゴさえあれば、計画通りだわ」
 ここは城の地下。
 后が真っ赤に彩られたリンゴを片手に微笑みました。
「これで白雪姫を……」
 呟いた後、后の高笑いが地下に響き渡り、鼠が恐怖したほどです。
 



「じゃあ行ってくるでござる」
「知らない人が来ても、開けちゃ駄目だからね」
 カイエンとリルムという二人の小人に言われ、白雪姫は少し微笑みながら頷きました。
「ピンチになったら呼べよ!」
「ガウも! 助けに行く!」
 ロックとガウもそれぞれ白雪姫に声をかけ、つるはしやバケツを持つ。
 他の小人も白雪姫に声をかけて家を出て行きました。
 小人が仕事に出かけてからの白雪姫は大忙し。
 ここに住んでいる代わりにと、家事を引き受けてしまったのですから。
 お城育ちの白雪姫には慣れない家事も、ここ数日の間で何とか人並みの一歩手前まで来ましたが、それでもまだまだです。
 さぁ、掃除に洗濯。そして料理と休まる事がありません。
 やっと仕事が終わったかと思えば、今度は乾いた洗濯物を取り込まなければいけません。
 白雪姫が外に出ると、辺りは綺麗な茜色の空でした。
 もうすぐ小人たちが帰ってくる時間です。
 しかし、白雪姫はその空の綺麗さにしばし心を奪われて見入ってしまいました。
 そんなときです。
「おや。美しいお嬢さんだねぇ」
「え?」
 白雪姫が振り向くと、黒いフード付きローブで体を覆った人物が庭に立っていました。
 その人物はどこかで聞いたような声をしていましたが、白雪姫は思い出せませんでした。
「あの……知らない人は家に入れちゃ駄目って言われているんですけど」
「おやまぁ。それはごめんなさい。でも、ここは家の中じゃないからいいじゃないの」
 白雪姫は辺りを見回して考えました。
 確かに、家の中ではありません。
 敷地内なのは確かですが。
「そうね。それで、貴方は一体誰なの?」
「わたしはリンゴを売りに来たの。とてもおいしいいリンゴよ。どう? 一つ食べてみない?」
 黒いローブの中から真っ白で美しい手が出されました。その手には、真っ赤なリンゴが乗っています。
「おいしそうね」
「そうでしょ? 値段は食べてから考えてくれたらいいから。どう? 一口」
 白雪姫は少し思案し、軽い気持ちでリンゴを手に取りました。
 その時、ローブの人物の口元が笑ったのですが、そんなことに気が付くはずもなく。
 白雪姫はリンゴを持ったまま考えました。
 そんな白雪姫を見て、ローブの人はいぶかしみました。
「どうした? 食べないのかい?」
「食べるには、ナイフとフォークがいるし。ちゃんと切らないといけないわ」
 そう。白雪姫は今まで城の中で暮らしていたので、そのまま食べるということを知らないのです。
 なおかつ、リンゴはウサギの形に切るものだという認識もあります。そう考え、自分にその形ができるかどうかを考えていたところなのでした。
「そんなことはどうでもいいんだよ。そのまま齧ればいいのさ」
「齧る?」
 突然言われたことに白雪姫は目を丸くしました。
「そう。こう歯を立てるの」
 ローブの人は手を口の所に持って行き、齧るジェスチャーをしました。
「この方がおいしくリンゴを食べられるの」
 そう聞くと、白雪姫は本当にこの方がおいしく食べられる気がしました。
 そこで、見よう見真似でリンゴを一口。
 そしたら、いきなり白雪姫はその場に倒れてしまおました。
 なんとそのリンゴは后が作った毒リンゴだったのです。
「ふふ。計画通り」
 ローブの人はそう呟き、フードを脱ぎました。
 フードの下からは太陽のように眩しい金色の髪と真っ白な肌をし、整った顔立ちの女の人が現われました。
 そう、后でした。
 后は白雪姫が倒れると一目散に城へと急ぎました。
 小人たちに存在が知られては大変です。
「これで、後は王子を呼び出すだけ」
 おやおや? 后は謎の言葉を呟き去っていきます。
 一体どういうことなんでしょう?

「たっだいまぁ」
 ドアを開けて一番初めに入ったのはリルムでした。
 リルムの顔は少しすすで汚れていました。
「あれ? 白雪姫?」
 リルムが呼んでも誰も返事をしません。
 それもそのはず。白雪姫は庭で倒れているのですから。
「クポー!」
 突然庭から小人の声がしたので皆は慌てて向かいました。
 すると、そこには白雪姫が倒れているではありませんか。
「モグが見たらもうこんなことになっていたクポ!」
 モグという名の小人は白雪姫の周りを走り回り、どうしたらよいものか困っていました。
「これは……」
 同じく固まっていた小人の中でカイエンだけが白雪姫に近づき、手首を取り脈を計ったり口元に手を当て呼吸の確認をしていたりしました。
 そして、診断が終わると皆の顔を見て静かに首を振りました。
「そんな……」
 セッツァ―が最初に言葉を出し、続けて皆が白雪姫の周りに集まりました。
「もう、死んでいるでござる」
「なんだよそれ!」
 ロックが顔を赤くして叫び、リルムは悲しげにうつむきました。
「ガウ……」
 ガウも力なくうなだれ、マッシュは唖然と言葉を無くしていました。
「守ってやるって、言ったのに……」
 皆白雪姫を囲み、悲しみにくれました。
 皆白雪姫がとても大好きだったのです。ですからどうしてこんなことになったのかわかりませんでした。
 とにかく、悲しかったのです。







 悲しみは三日見晩続きました。
 その間、白雪姫は小人たちが作ったガラスの棺に入れられ綺麗に身なりを整えられていました。
 死んでいるのに、まるで生きているようにも見えました。
 小人の泣き声は森中に響き、森の動物までもが皆悲しみました。
「おや? この泣き声はここから聞こえているんだね?」
 そんな中、金の髪を後ろで結び蒼い瞳をした男の人がチョコボに乗って通りかかりました。
 この人はひらりと軽やかにチョコボから降り、小人たちの方へと近づきました。
「どうしたんだい? 一体」
「クポー。白雪姫が死んじゃったクポー」
 小人の一人、モグは泣きながら事情を説明したのです。
「ふむ。と、いうことは。そのリンゴを齧ったのが原因だと言いたいんだね?」
 この問いかけに小人全員が頷きました。
 そこで、この男の人は少し思案した後小人にそのリンゴを持ってきてくれるよう頼みました。
 そこでリルムが取りに行き、男の人に渡しました。
 リンゴが男の人に渡る瞬間。男の人はリルムのことをじっと見つめました。
「何?」
 リルムが尋ねると男の人は静かに首を振りました。
「いや。さすがに犯罪かなと」
 いやはいや、この人は何を言っているのでしょう。
「しかし、三日も経ったというのに。このリンゴは全く腐っていないね」
 それを聞き、小人たちが首を傾げました。
「毒リンゴだからだろ?」
 マッシュが言うと、男の人は。あぁそうか、と手を打ちました。
「でも。これで死ぬことはないよ。仮死状態にはなってもね」
「え?」
 その一言で小人の涙は止まり、皆が男の人を見ました。
 男の人は、リンゴを地面に置くとガラスの棺へとゆっくり近づきました。
 棺には美しいままの白雪姫が横たわっています。
 男の人は、ガラスの棺を静かに開けると白雪姫の体をゆっくり起こしました。
 そして。
 バシッ。
 と、急に背中を思い切り叩いたのです。
 あまりの行動に小人たちは目を丸くして口を開けたまま固まってしまいました。
 するとです。
「げほっ」
 と、白雪姫が何かを吐き出し。息をしたではありませんか。
 この事にも驚き、小人たちは腰を抜かしてしました。
「わたし……」
「お姫様。迎えにきましたよ」
 男の人はこう言い、白雪姫の手を取りました。
「え。貴方、は」
「わたしは隣の国の王子。エドガー=ロニ=フィガロです。ティナ姫」
 なんと、その人は隣の国の王子様だったのです。
 これまた小人たちは驚き、言葉を無くしてしまいました。
「どうして、わたしのことを」
「姫の義母様(おかあさま)に聞きました。ここで姫が眠っていると」
「え?」
 王子の語る言葉に白雪姫は訳が分かりませんでした。それは小人たちも同じでした。
「いい加減。出てきて、本当のこと言ったらどうです?」
 王子が言うと、物陰で衣擦れの音がしました。
 そして、眩しいくらい金色の髪をして、吸い込まれそうに蒼い瞳の美しい女性が現われました。
「義母様(おかあさま)!」
「セリス!」
 白雪姫と同じくして叫ぶ声がもう一つありました。
 それは小人の中から発せられたのです。
「ティナ」
 后が呟くと、白雪姫は目を白黒させました。
「どうして、ここに……」
「全ては貴女の為よ。貴女を城から追い出したのも、毒リンゴを貴女に食べさせたのも。全てはそこにいる王子と結婚させるため」
「そんな。いきなり結婚だなんて」
「わたしはそのつもりでここへ来たよ?」
 ニコニコと微笑む王子を見て、白雪姫は頬が暑くなるのを感じました。
 どうやら、姫の方もまんざらではないみたいです。
「だいたい。貴女は奥手すぎるのです。だからわたしが事前に貴女が住めるような小人たちの小屋を探したり、暗殺者に殺さないように依頼したりと」
「じゃあ、あの時の人はやっぱり」
 后の話を聞き、ロックは納得したように頷きました。
「貴女のように恋愛オンチでは、何度も求婚してくれている王子に失礼です。それで、このようなことをしました」
「求婚って」
 白雪姫が王子を見ると、王子は変わらない微笑で白雪姫を見ていました。
「前に一度見かけたことがあってね。何度も手紙を送ったけど、君からの返事は来なかった。そこで王妃様に相談したんだ」
「手紙?」
 白雪姫は手紙のことを思い出そうとしましたが、無理でした。
 それもそのはず。
 手紙は届いても、白雪姫は全く詠まなかったからです。
 いつも姫様教育でそれどころではなかったのですから。
「ごめんなさいね。ティナ。でも、仕方のなかったことなのです」
「……」
 いろいろな事があって、白雪姫の頭の中はパニック状態になってしまいした。
「姫。わたしと結婚してくれますか?」
 そんな中、王子は姫の手に口付けをしながら見つめました。
 白雪姫はその瞬間に顔から火が出るほどに恥ずかしくなり、ただ頷くしかできませんでした。
 それを見て小人たちはなんだかわかりませんが、とりあえず白雪姫が幸せになるのだと想い喜びました。
「よかってですね。では、城へ戻って結婚式の準備としましょうか」
 そういって戻ろうとする后の裾を引っ張る者がいました。
 小人のロックです。
「あら。どうしたのかしら?」
「あの時の約束。守らせてほしい」
 その言葉を聞き、后は顔が赤くなるのを必死で抑えました。
「俺にお前を守らせて欲しい」
「そっ。そんなことを言われても」
 后は今度は動揺を隠せませんでした。
「もし、俺が小人っていうのが気になるんだったら、人間意なる秘法を探してやる。だから、守らせて欲しい。もう、白雪姫みたいに俺の知らないところで大変な目に遭わすのは嫌なんだ」
「そんな」
「いいじゃないか。王妃といえど、貴女はもう独身だろう? 王はずいぶん前に亡くなってしまったし」
 いつの間にか白雪姫をお姫様抱っこした王子はチョコボに姫を乗せながら言いました。
「何を勝手に!」
 后はいまだかつて無いほど狼狽しました。
 しかし、ロックは執拗に后に言ってきます。
 そんな様子を王子と白雪姫はただ見守り、他の小人たちも見守るだけでした。

 さてさて、この後。
 白雪姫と王子は無事に式を挙げ、結婚しました。
 小人たちはというと、白雪姫のそばでいつまでも幸せに暮らしたということです。
 ただ、后とロックはどうなったのか。
 それは秘密としておきましょう。
 ただ言えることがあるとした、ロックは小人ではなくなってしまった。ということでしょう。
 ここでこの話は終わります。
 どこかの世界の昔々のお話でした。






〜後書き〜

さて、どうでしたでしょうか?
今回は童話をもじって(?)みました。
最後のセリスとロックのエピソードが一番書きたかったところです。
あと、メインキャラだけでも出そうとしていたのですが、シャドーが出ませんでした(爆)
最初の段階では出ていたんですけど。書き直してしまって。
わたしは今のバージョンのが好きなんですけどね。
でも、どうだったかドキドキです。
また感想とかございましたら、メールや掲示板で気軽にどうぞです。

2005年9月20日アップ

終わり


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