☆たった一つの言葉(2)☆
「マディン! ちょっとうちの畑の様子を見てくれない? なんだか寝てる間に変わったらしくて」
「マディン! 料理作ってみたの。どう?」
「マディン! 模様替えをしたいんだけど、手伝ってくれない?」
ここのところ、連日連夜。シルフがやって来てマディンを自分の家へと連れて行く。そして長い時間引き止めて、マディンは帰ってくると困ったような顔をしてわたしに謝る。
彼が謝ることないのに。ここは彼の住む世界。わたしはいてはいけない存在。そんなわたしを置いてくれるだけで、大変なことのはず。 彼がシルフと一緒になるのなら、わたしはここを出なければいけない。シルフは彼の事が好きで。シルフは彼と同じ幻獣。お似合いの、カップル。
「マドリーヌ。どうかしたか?」
マディンがわたしの肩に手を置き、後ろから尋ねてくる。
温かい、彼の体温。これもいつかなくしてしまうの?
「いいえ。どうもしてないわ」
答えながら振りむくと、彼の優しい瞳の中にわたしが見えた。そんな目で見られたら、いつかくる別れが、辛くなってしまう……。
「そうか?」
「ええ」
微笑むと突然彼に抱きすくめられる。
彼は幻獣だけど、人間よりも人間らしい行動を取る。いつもわたしに温かく接してくれて、いつもわたしを気遣ってくれる。でも、わたしには何も返す事が出来ない。
料理を作ったり、掃除をしたり。そういうことでしか返せない。
「すまないな」
「え?」
「最近、家を空ける事が多くて」
「大丈夫よ。気にしないで。シルフさんは困っているんですもの。幻獣は仲間を大切にするでしょう? 当然じゃない」
「マドリーヌ」
彼が呟いて、腕に力を入れる。
何だか嬉しいような、胸が痛いような。
「マドリーヌ。俺は」
「マディン!」
ドアが乱暴に開かれ、いつものようにシルフが嬉々として入ってくる。
「シルフ」
彼はそう呟くと、優しくわたしから離れていく。
彼の体温が、わたしから離れる……。
シルフは少し怒った顔になるけど、すぐに笑顔へと変わり。彼へと駆け寄ってくる。そして、彼の腕を取り甘えた声を出す。
「ねぇ、マディン。家の屋根が何だかキシキシいってるの。ちょっと見てくれない?」
「シルフ。今日は」
「何? 何か用事?」
そう言いながら、シルフさんは凍るような視線でこちらを見てくる。
「いいのよ、マディン。屋根が壊れたら大変ですもの。行ってきてあげて」
すまない。
それだけ言って、彼が部屋を出て行く。
別に謝ることなんかないのに。わたしが、彼に住まわせてもらっているのに。
「……」
気がつくと、シルフさんがじっと食い入るようにこちらを見ていた。
な、に?
「あの……」
「何で人間のあんたがこんなところにいるの」
冷たい言葉。でも、言われても反論ができない。
彼はいいって言ってくれても。わたしのことを認めない幻獣たちはたくさんいる。
だから、冷たい視線にも慣れてる。元々、人間の世界にいても冷たい視線は同じだもの。でも、人間よりも幻獣のほうが遥かに怖い。
わたしまで、凍り付いてしまいそう。
「わたし」
「マディンは、ちょっと変わってるからあんたのことを許してるのかもしれないけど。はっきり言って邪魔なの分かってるでしょ?」
邪魔……そう言われればそうかもしれないけど。でも、彼はまだそんなことを言ってない。
だから、せめて彼がわたしをいらないというまでは……彼の傍に……。
「第一人間なんてまた何時わたしたちを裏切るかわからないのよ。そんな危険な存在、マディンの傍に置いておけない!」
「裏切ったりなんか!」
「だって人間じゃない! 出て行ってよ! マディンに近寄らないでよ!」
「わたしは!」
言いかけて、視界に彼が映ったので言葉を止めてしまう。
「シルフ」
静かに言って、シルフさんの頭に自分の手を置いた。
「マディン」
シルフさんはゆっくりと上を見上げる。
彼はなんだか、いつものような優しい顔じゃなくて、目を釣りあげてシルフさんを見下ろしていた。
そんな彼を見て、シルフさんはゆっくりと顔を引きつらせていく。
「謝りなさい。シルフ」
穏やかに言ってるけど、変わらず険しい顔。
こんな彼は見た事がない。どうしたの? もしかして、わたしがシルフさんにいろいろ言われたから?
「マ、マディン。気にしないで。わたしなら」
「気にしないなんてこと、できるわけないだろ」
低い声でわたしまでも睨んでくる。
シルフさんとは違って、迫力が凄い。これが大人の幻獣。シルフさんはまだまだ幼さが残ってるけど。彼は違う。睨むだけで相手を殺してしまいそうな、相手を戦闘不能にさせてしまうような、そんな……。
わたしは立っていられなくなってその場に力なく座り込んでしまう。顔ももう上げられない。これが、幻獣なんだ。彼は、ちゃんとした、幻獣……。
「自分の好きな女が罵倒されているんだ。気にするのは当たり前だろう?」
その声と共に、肩に手が置かれる。
……今、何て言ったの?
顔をあげると、いつもの優しい彼の顔がそこにあった。
優しいグレーの瞳。温かい手。
「ま、でぃ、ん?」
「ん?」
「今……」
それ以上は唇が震えて声にならない。
彼が、わたしのことを?
「さっきはシルフが来たからしっかりと言えなかったな」
そう言うと、彼はわたしを優しく抱き締める。
「好きだ。初めて会った時から。だからあの時も帰したくなかったんだ」
彼の声が頭の中に響いて、甘く痺れる。
体中が衝撃が走って、力が抜けていく。
そんなわたしを彼はしっかりと抱き締めてくれた。とても甘い衝撃に、夢かと疑いたくなる。でも、これは現実……のはず。だって、彼は幻獣。人間とは違う種族。
「マディン」
「ん?」
「わたしも、わたしも貴方が」
「ちょっと! 無視してラブシーンしないでよ!!」
シルフさんの大きな声で我に返る。
わたしったら、こんな人前で一体何を。
恥ずかしくてマディンから離れようとするけど、マディンの強い腕から離れられない。それどころか、ますます体が引っ付いていく。
「マディン!」
「シルフ。俺はマドリーヌが好きだ。だから、お前とは」
それを聞いて、シルフさんは少しずつ目が潤んでくる。
「お前とは」
「マディンの馬鹿!! そんなの、聞きたくない!」
それだけ言うと、ちょっとした竜巻で家の家具を引っ掻き回して外へと飛び出して行く。
「マディン! シルフさんが!」
「……シルフのことは、妹としてしか見ることができない」
「え?」
なに、を?
「昨日、シルフに告白された」
シルフさんに……?
「そこでもシルフにははっきりと自分の気持ちを言った」
……わたしをあんなに冷たい目で見たのには、そのことも原因が?
「だから、後を追う必要はない。それこそ、あいつを傷つける」
「マディン……」
「それより、マドリーヌは俺のことをどう思っているんだ?」
「え」
答えに詰まる。
でも、彼の想いに応えなくては……。
彼はちゃんと言ってくれた。わたしの欲しかった言葉を。わたしの安心できる言葉を。
わたしは必要とされている。ここに、いられる。いてもいい。そんな意味が含まれている言葉。
わたしも、応えを……。
「わたしは――」
終わり
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〜後書き〜
後書きです……。っていいましても、前に書いたロクセリの「幻想の日々」では書き忘れましたが(爆)
さてはて、ものすごくマイナーなティナの両親の話です。読んでくれる方いらっしゃるでしょうか……。
ティナの話もいつかは書こうかと思ったんですけど。まず、両親かなと。
だって、この二人すごくラブラブじゃないですか。子どもがすぐできるんですよ?! それこそダンスして(爆)
でも、人間と幻獣ってことで障害いろいろとあると思うんです。
今回うまくそのことを書けませんでしたが、これからまた書いていきたいと思います。
はい。両親の話はまだ続くでしょう……。
とりあえず、この話はこれにて終わりとなります。
また感想などよろしければ、掲示板やメールで聞かせてくれると嬉しいです。
このようなところまでよんでくれてありがとうございます。このような文を……。
それでは、ありがとうございました〜。
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