聖夜の夜に・・・





「クリスマス?」
 セリスの突然の聞きなれない言葉に首をかしげた。セリスは、そうとうなずいて目の前のパスタを小さい口に運ぶ。いつもながらかわいい動作だなぁ。じゃなくて。
「知らない?」
 首をかしげるセリスをかわいいなぁと思いつつ、聞きなれない単語について考えてみる。
 確か、寒くなったって話をしてて。セリスのために毛布でも探さなきゃなと思っていたら、この時期にそういうことをしたわねってセリスが言い出して。
 この時期?
「そもそもそれはなんだ? 食い物か?」
 そう言うとセリスは目を丸くして俺の顔をじっと見る。
 そんなに食い入るように見なくても……。
「このぐらいの時期に、樹や家に飾り付けをしたり、いつもと違う食事をしたりするの」
「へぇ」
 何かのイベントなのか。でも、心当たりないなぁ。
「この辺りでは飾っている家を見た事がないから、帝国だけでやっていたのかしら?」
「ん〜」
 職業柄、あちこちの町や村へ行くが見たことあるようなないような。そもそも村に着いても行くのは洞窟とかだし、知らないのも無理もないだろうか?
「わかんね。で、そのクリスマスがどうした?」
「あっうん。もうそろそろだし、やってみない?」
「かまわねぇよ」
 セリスが望むなら、それで俺はかまわない。
 今まで戦いにあけくれる日々で、楽しみを知らなかったセリスから言い出すのは珍しい。戦いの終わった今となっては、できるだけセリスに今まで経験できなかったようなことをさせたいと思っている。セリスに笑顔が増えるならそれで。
「ありがとうロック!」
 そのとびきりな笑顔を独り占めできる俺ってかなり幸せ者だなぁと思う。
 そんな俺み笑いながらセリスはクリスマスまでにすることというやつをあれこれ楽しそうに話し出した。
 それにしても。クリスマスか。エドガーにでも聞いてみるか。近々ティナをモブリズから連れだす口実にここへ来るって言ってたし。




「セリス、何してるの?」
 わたしがケーキを焼いていたら、ティナが不思議そうな顔で近寄ってきた。
「クリスマスの準備よ」
 そう言いながらわたしはオーブンの中をうかがう。入れるところが透明になっていて中に何が入っているか見えるのが決め手となったこのオーブン。そっと見ると、うんうん。ちゃんと焼けてきてる。
 結んでいた髪をほどくと金の髪が肩に落ちてきた。
「クリスマス?」
 ティナがわたしの言葉を聞いてきょとんとした顔をする。あれ? 帝国で結構有名な行事だけど、ティナは知らない?
 そこで、ふと思う。ティナは操りの輪をはめられていたなら、知らないのも当然? 外界のことなんて、あれをしていたらわからないわね。
「初めて聞くわ」
 案の定、ティナが答える。うぅん。どうやって教えるのがいいかしら。
「一年に一度の特別な日、かしら」
「特別な日?」
 ティナはわたしが言ったことを復唱し、考える。
「そう。家や樹を光とかで飾ったり、いつもと違う食事にしたりこうしてケーキを食べたりするし。だから、こうやって焼いてるの」
「へぇ」
 その後ティナはわたしがしたのと同じようにオーブンを少し覗いてみた。ケーキを見るのも初めて? なわけないわよね。ケフカを倒した後みんなで打ち上げみたいなものをしたし。
 それにしても、クリスマスをちゃんとやるなんて何年ぶりかしら。少なくともわたしが帝国で将軍になってからはやってないから、5年は経っているか。もっとかもしれない。
 小さい頃、まだケフカがあぁなる前にやっていた気がする。
 シド博士と一緒に、飾り付けられた研究室で食事をして博士が作った少し形がいびつだけど生クリームのたっぷり乗った小さいケーキ。初めて食べたとき、とても甘くて、とてもおいしくて。こんなものがこの世になったのかと本気でびっくりした。
 いろいろ思い出すと、何だか懐かしい。わたしにもあんな時期があったんだなとか。年齢と共に、そんなことはなくなっていったけど。
「じゃあ、今日がそのクリスマスなのね?」
「そうみたい。村の人に聞いてみて今日だってわかったし」
 でも不思議ね。村の人たちはちゃんと今日がその日って知っていたのに、ロックは知らないなんて。
 そういう習慣がなかったのかしら? それとも忘れてるだけ? 
「ねぇ。じゃあわたしもケーキ作ってもいい?」
「え?」
「子どもたちに持って帰ってあげたいなって。それに、エドガーにも今日セリスたちに会わせてくれたお礼もしたいし」
 エドガーがここへティナを連れてきた真意は伝わってないみたいかな? ここに来るって、ただティナに会いたいだけの口実なのに。ティナって、やっぱり天然だわ。
「セリス?」
「ううん。それより、子どもたちに作るなら保存を生クリームとかは向こうについてからの方がいいかもね。ここでは生地だけを焼いたほうが溶けなくていいかも」
「そっか」
「じゃあ、作り始めましょうか」
「えぇ」




「エドガー。クリスマスって知ってるか?」
 コーリンゲンの村に来ているエドガーを散歩に誘い、聞いてみた。
 最初はやっと会えたティナから離れたくて渋っててから苦労したが。おかげで今も傍目にはわからないがその仮面の下では機嫌が悪いだろうなぁ。ティナは、こんなこいつの思いにいつ気がつくんだろうか。
「クリスマス?知っているが、それがどうかしたのか?」
 案の定、いつもより冷たい言い方で答える。これが女だったら、違うんだろうなぁと思いつつ。
「どんなのか教えてくれないか?」
 そう言うと、エドガーはもう全部わかったよな顔をして口元に笑みを浮かべた。
「なるほど。だから、わたしをあんなに外へと誘ったのか」
「まぁ」
「しかし、本当にクリスマスを知らないのか?」
 全然記憶がない。
「全く、なんていうやつだ」
 大袈裟に息を吐き、哀れみを含んだ目で俺を見る。そんなに俺っておかしいのかよ。
「クリスマスはな。恋人同士が共に過ごし、プレゼントを交換したり、愛を語らう日だ」
 ん? セリスが言っていたのと、違う気がする。
「セリスはそんなこと言ってなかったぞ?」
「セリスに聞いたのかい?」
「まぁ」
 セリスにはだいたい何をする日か聞いたけど、何だかあまり掴めなくてエドガーに聞いたわけだが。セリス、そんあこと一言も言ってなかったぞ?
「セリスの性格からしたらそんなこと言うはずないだろう?」
 俺の疑問を見透かしたようにエドガーが言葉を投げてくる。
 言われてみれば、あの照れ屋のセリスが俺にそんな日だと言う筈がないか。恋人と過ごす日? それにプレゼントかぁ。
「って言っても、何をあげれば」
 そういや、ケフカを倒してから一年近くたつけど。セリスに何もあげてなかったなぁ。そうか。じゃあ倒してからすぐに一緒に暮らしだしたからそういうのでも一年たつのか。なのに、何もあげてない。誕生日はこの村の復興でばたばたしててそのままになっちまったし。あげる機会もなく。
 今まで何もあげたことがない分、何をあげていいのかさっぽりわかんね。
「なんだ。クリスマスにあげるものを知らないのかい?」
 ニヤニヤとエドガーが俺を見る。こいつ、困ってる俺を明らかに楽しんでるな。
「何だ?」
 まぁ、この際わらにもすがる思いで聞いてみる。決まってるならその方がいいかもしれないし。
「それじゃあ、教えてあげよう。それはね」




「メリークリスマース!!」
 わたしがそう言ってワインの入ったグラスを持ち上げると、ロックは少し驚いたけどすぐに反応してくれる。ロックも持ち上げてわたしのグラスにカチリと音をたてた。そしてわたしたちは同じように口に液体を流す。
赤いワインが口から喉を伝い、潤う。なんだか、いつもよりおいしく感じられる。
「に、してもここまでがんばったなぁ」
 ロックが見回して感嘆の声をあげてくれる。それを聞いただけでがんばったかいがあったなと思う。
 部屋を金や銀のモールで飾り、樹を隅に置いた。それだけのことだけど、でも思ったより時間がかかって焦ってしまった。樹が思ったより重かったし、樹に飾る星やリンゴ、天使の形の飾りを作るのにも時間かかったし。これは、前からこつこつ作ったからまだマシだったけど。
 でもティナに手伝ってもらわなかったらできたかわからない。
「料理も、がんばったんだな」
 ロックが褒めてくれてなんだか頬が赤くなってしまう。
「いつもと違うけど、ちゃんとお金はおさえてあるから大丈夫よ」
 そう言うと、ロックが小さく吹き出す。その後、そんなの言わなくても大丈夫だって。と、付け加える。そうかもしれないけどなんとなくね。
「そうだロック。今日はね、デザートもあるの」
「デザート?」
 ロックが不思議そうな顔をする。やっぱりクリスマスを知らないんだなぁ。と思いながら裏口の方へ向かう。
 裏口には、白い皿に乗った一段のケーキ。白くてふわふわの生クリームに赤い苺を上に並べてみた。中央にチョコをまぶしただけの素っ気無いケーキだし、形もいびつ。来年にはもっとうまくならなきゃ。わたしはその皿を手に取るとロックのところへと戻っていく。
 ロックは戻ってきたわたしを見て目を丸くする。その表情だけでもなんだか嬉しくなる。
 ケーキをテーブルに置くと、ロックはケーキに顔を近づけてからわたしの顔を見る。
「これ、セリスが?」
「そうよ。他に誰がいるっていうの?」
 ウインクしながら言うと、ロックがぽかんと口を大きく開けた後急に笑顔になる。そんな不意打ちにこっちがドキドキしてしまう。
「だいぶ料理の腕、あがったよな」
「だって、もう一年だし」
 口に出し、改めて実感する。もう一年ロックとこうして一緒にご飯を食べたり、一緒の部屋で寝たりしているんだ。
 なんだか、不思議な気分。将軍と言われ、周りから恐れられていたわたしがこうして穏やかに暮らしているなんて。
「俺もさ。セリスに見せたいものがあるんだ」
 見せたいもの? 首をかしげると、ロックは柔らかく微笑んでポケットからごそごそと四角くて白い、小さな箱を取り出した。
「箱?」
 ロックはそれをわたしに差し出したら、そっと手に取る。なんだか軽くて振ってみると、からから音が鳴る。
「これ何?」
「ん? クリスマスにあげるもの?」
 何故か自分でも疑問系に言葉を発する。エドガーにでも教えてもらったとか?
 とりあえず箱をそっと開けてみると、中には銀色に光る小さい輪が光っていた。それを見て、息が止まる。
「クリスマスにはこれをあげるものだって言ってたし。そうでなくても、俺たちもう一年ぐらい一緒に暮らしてるのに何もセリスにあげてないなって思ってさ。だから、よかったらもらってくれよ」
 少し照れながら、でもわたしの方を向いてロックが必死に話してる。
 言葉が出てこない。代わりに指輪をそっと手にとって眺めてみる。かわいいデザインで内側にはわたしの名前が彫ってある。それにロックの名前も。
「どの指にはめたらいい?」
 やっと出した声で聞くと、ロックは顔を一気に赤くしてわたしに手を出す。小さい声で貸してみろと言うので言うとおりにしてみる。
 そしたら、ロックはわたしの左手を取り薬指へとそっとはめる。まるで最初からそこしかはまらないかのようにピタッとはまった指輪を見て、目を丸くしてしまう。
 ロックを見ると、ロックは赤い顔を隠すように笑っていた。わたしもその顔を見て微笑んでしまう。
 まさか、クリスマスにこんなことがおこるとは思わなかった。こんな幸せな事が起こるなんて、思わなかった。
 ロック、メリークリスマス。




〜後書き〜

クリスマス企画! と、いうほどのものでもありませんが。
ホントはフリー配布にしようかなとも思ったのですが、ややこしい(?)かと思いまして。
そういうのは一周年企画とかのほうがいいかなと。
一周年何をするかは決まっていませんが(笑)
何だか久々に(?)ラブラブなロクセリを書けた気がします。
連載小説(?)の方では何だかシリアスなので。こちらはコミカルに。せっかくのクリスマスですし。
では、皆様にメリークリスマス!!
また感想とかございましたら、メールや掲示板で気軽にどうぞです。

2005年12月24日アップ



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