鏡の魔力(3)





「じゃあね〜、ロックちゃん」
 リルムが妙に明るい声でロックに手を振り帰って行く。ロックはふてくされたままリルムたちに背を向けて座っている。
 リルムたちが来て、ここぞとばかりにロックを遊んでそして帰って行く。それも今日が2日目。最初から怒っていたロックはますます膨れて、わたしが何を言っても一言も話さなくなってしまった。
 エドガーやティナはリルムたちのからかいをするりとかわしてしまうけど、ロックは反応してしまうのでさらにからかわれている。それを止めるけど、あまりきいてくれないリルム。
 なんだか、不安になる。ロックがこんなに怒っているなんて初めてだから、どうしていいかわからない。
「ロック……」
 そっと呟いてみるけれど、ロックからの反応はない。それが、寂しくて。どうしてこうなってしまったんだろう。こんな状態、嫌だ。
「ごめん、ね」
「え?」
 ロックがはじかれたようにわたしを見る。その瞳の色はこうなる前と変わらず深い灰色をしていて、それがふと切なくなる。体が小さくなっただけで、ロックは何も変わっていないのに。
「わたしが、ロックの小さい頃に逢ってみたいなんて言ったからこんなことになったのかなって」
「セリス」
「だってほら、今日で3日目なのに。ロックの体はまだ元に戻らないから、もしかしたらわたしが」
 俯いてポツリポツリと言葉を漏らす。近くにロックが立つ気配。でも、顔を上げられない。そしたら、下から顔を覗き込まれた。
「これはあの鏡のせいだってストラゴスも言ってたろ? 気にすんな」
「でも」
「でも?」
 言っていいか迷う。これを言うのはなんだか恥ずかしくて情けない。そんなわたしの気持ち。知られることが、いいのかわからない。知ってほしいのかわからない。知られたくない。
「ううん。何でもない。ご飯の支度しようか」
 笑顔を作って背を向けると、台所へと向かう。宿屋にはいつまでいるかわからないから食事は自炊させてもらえるようにしてもらっている。こうしてもらってちょうどよかった。こんなロックやエドガーと一緒の部屋だとそれはそれで何か言われたら面倒だし。
 最も、エドガーはそれでも平然と宿や出て行って、外を楽しんでいるみたい。ティナと一緒に。
 少し羨ましいけど、あの二人のことを考えるとこれでいいのかなとも思う。ケフカを倒してからだいぶたつけどなかなか進展しない二人。原因は主にティナにあるけど、見ているこちらはいつもやきもきする。
 台所に立って、今日はどうしようかと考える。献立を考えることで、思考を切り替える。
「セリス」
 後ろから呼ばれて、振り向かないまま動きを止める。
 せっかく思考を切り替えようとしたのに。
「ちゃんと言ってくれ」
「ロック……」
「こんな格好じゃ何言っても格好つかないのはわかってるし、今の俺はすごく情けないのもわかってる。でも、セリスへの気持ちは変わらないから。セリスが何で不安なのか言ってくれないとわからない。だから、言ってくれ」
 後ろからロックに手を握られる。暖かい手と言葉。不意に涙が出そうになるけれど、押さえる。
 場に下りる沈黙。ロックに言葉を返さなきゃいけないことはわかっている、でも今口を開いたら涙がこぼれそうでそれが怖くていえない。
「それとも、こんな格好の俺は情けなくて言えない、か」
「!」
 違う、そんなこと言わないで!
 振り返りロックを抱きしめる。いつもとは違う感覚。わたしの体がロックを覆って、いつもと逆になる。
「違うの! 違うの、ロック……」
 ロックの両手がわたしの体を包み込む。
「わたしはロックがどんな姿でもいいの。でも……でもロックがいつも機嫌悪いから。だから」
 だから……。
「……かっこ悪いだろ」
 消えそうな声が聞こえてきて、わたしはロックの顔を見つめた。まるで完熟トマトのように真っ赤になった顔。吊られてこっちまで赤くなりそう。
「こんな。セリスを見上げなきゃいけない。セリスを包むことすらできない俺。かっこわりぃよ。こんな俺、見られたくなくて」
「ロック……」
「それに、セッツァーらにも腹が立っていたから」
 それは、わかる。2日もよく飽きずにロックをからかいにこれると。ここぞとばかりにからかうのは、危ないと思うけれど。
「だから、機嫌悪いのはセリスのせいじゃないから」
「……」
「それに、俺がこんな体になったのは本当に鏡のせいだから気にしないでくれ」
 ロックの言葉一つ一つが胸に広がっていって、とても暖かくなる。さっきまでの悲しさが一瞬にして吹き飛ばされて、自然に笑顔が生まれる。
「ロック」
「セリス。ごめんな」
 真っ直ぐわたしの目を見て言うロックをもう一度抱きしめる。強く、甘く体に流れ込むモノ。
 ロックはどんな姿になっても変わらない。いつまでも一緒。それが嬉しい。




「はっはっは。よかったのう。元に戻って」
 わたしたちの目の前でストラゴスが大笑いする。その横でリルムは少しつまらなそうな顔で座っている。当のロックは上機嫌。これはこれでいいんだけど。
「わたしは別にもう少し小さくてもよかったんだがね。なぁティナ」
 いつもの軽口でティナに語りかけている王様は小さかろうがそうでなかろうが関係ない。まったくいつもどおり。
「ぜってぇやだ! これでも戻るの遅いって」
 ロックは慌てて抗議する。
 朝目が覚めると、隣に寝ていたロックが大きくなっていたことにまず驚いた。こんなに突然。何の予兆もなしに戻るなんて思っていなかったからそのまま固まってしまったのは無理もないと思う。
 目が覚めたロックは今まで見たことのないほど喜んでいたけれど。それがまたかわいかったなんて、言ってはいけない気がする。また怒りそうだから。
「まぁ、戻ってよかったのう。で、鏡はどうするんじゃ?」
 そうだった。ストラゴスにはロックたちが元に戻った報告とあの鏡に対してのことを相談しに来たんだった。
「あの鏡の呪いって、解けないのか?」
 率直に切り出すロックに、唸るストラゴス。最初に鏡の事を聞きに来た時でさえ思い出してもらうのに時間がかかったし、そう簡単に思い出してくれるとは限らないけど。
 それに、解けるかどうかもわからない。
「ふむ。無理じゃのう」
「な!」
 ストラゴスの言葉を聞いて座り込むロック。そんなにショックだったのかな?
「あの鏡はその昔、とある貴族が若返りたくて作らせた物じゃ。その貴族は不運な子ども時代を過ごしてな。だから、もう一度、子ども時代を過ごし直したかったのじゃ」
 子ども時代……。
 ふと自分の子ども時代を思い出しそうになってやめる。帝国時代(あのころ)なんて、思い出したくない。
 でも、わたしならどうするだろう。もし、子ども時代に戻れるならば。
「ばっかじゃねぇのそいつ」
「へ?」
 ロックの言葉にみんなが注目する。いきなり何を馬鹿にするのだろう、と。
「子ども時代って言っても、別に過去に戻るわけがないだろ? 自分が小さくなるだけじゃん。それであんな鏡作っても意味ないだろ?」
「まぁ、そうじゃなぁ」
 ストラゴスがヒゲをなでながら笑う。
「それに、過ぎた日はもう戻らないなら、これからを楽しめばいいだけの話だろ?」
 正論。正論すぎる。でも、他でもないロックがそれを言うことに驚いてしまう。レイチェルさんのことがあって、フェニックスを探していたロックが。過去を何度も悔やんでいたロックが言うからこそ、重みのある言葉に聞こえる。
「言うようになったね、ロックは」
 隣で微笑みながらロックに向けて言葉を切るエドガー。エドガーとロックの付き合いは結構古いらしいから、当たり前と言えば当たり前なのかな? 
「別に、んなことねぇよ」
「若いって、いいのう」
 ストラゴスがそんな二人を見て楽しんでいる。なんとなく、わたしとティナは口を出せず、互いに目を合わせて苦笑した。
「ところでさ、今その鏡どこにあるの?」
 わたしたちと同じく置いてきぼりになっていたリルムが少し膨れたように鏡のことを口にした。男同士の会話についていけないのもわかるからなんとも言えないけれど。
「あぁ、それなら」

「なんだこれはーー!!!」

 おかしい。少し離れている宿屋から聞きなれた声の絶叫が聞こえる。離れているのに、聞こえるなんておかしい。まぁ、あの人の声量なら納得もできるけれど。
「今の声」
「マッシュ?」
 エドガーに続いてティナが不思議そうに首をかしげる。
「なんでマッシュが?」
「ねぇ、ロック。あの声。宿屋方面から聞こえたわよね?」
 わたしの言葉を聞いて、ロックの顔から血が引いていくのがわかった。
「まさか。いやでも、マッシュだし」
 マッシュだしっていうところがミソだと思う。でも、その可能性が高いのも本当。
 そして、気のせいか聞こえてくる激しい足音。勢いよく開け放たれるドア。それを開けた小さい子ども。
 金色の短い髪を立て、妙に筋肉質な体にタンプトック。でも、タンクトップはぶかぶかで今にも体から落ちそうなくらい似合っていない。他人の空に。いや、それにしてはあの青い目がおかしいか。
 そんな子どもを見て頭を抱えるエドガー。
「兄貴! なんなんだこれは!」
 ごもっともです。せっかく部屋の奥に隠しておいた鏡を探し出すマッシュが悪い……と思っているのはわたしだけではないはず。でも、まぁマッシュらしいといえばらしいかななんて、思ったりもした。




〜後書き〜

またもや久々のアップです。
えと。ごめんなさい。こんなできとなってしまいました。しかも、短いです。
これなら前後編にすればよかったですね。反省です。
内容をメモした紙をなくしたのも反省です。あぁ・・・。
今回はほのぼのラブラブを目指しましたが、なかなかうまくいきませんでした。
書くまでに時間がかかり過ぎたというのも反省点ですね。
いろいろ反省ばかりです。
今度はもっとしっかりした内容で早く完結させたいと思います。
すみませんでした。
また感想とかございましたら、メールや掲示板で気軽にどうぞです。

2006年10月6日アップ

終わり


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