暖かい想い出を・・・





 夢だったのか、現実だったのか。よく判らないけれど、心の中にある記憶(もの)がある。それは、とても暖かくて、とても安心できて、とても優しかった。でも、それが実際にあったことなのか、それともいつの間にか勝手に作り出した幻なのかは、判らない。ただ、それを欲しがっていたことは、よく憶えている。




「そういやさ、セリスの両親ってどこにいるんだ?」
 わたしがドレッサーの前で髪を梳いている途中にそんなことを言われて、そのままの姿勢で手を止めてしまう。頭の中で今言われたことを繰り返して、答えを鏡に映っているロックに返す。
「知らないの」
「は?」
 予想した通り、ロックの崩れた顔が見れた。ロック的にはこんな答えが返ってくると思っていなかったらしい。
「でも、どうして急にそんなこと聞くの?」
「いや、俺たちやっと結婚するじゃんか。なのに、挨拶まだしてないなって」
 確かに、わたしたちは後3ヵ月後に結婚式を挙げることがようやく決まって、めでたしめでたしなのだけど。と、いうか。結婚前から既に同棲状態なので、今更という気もするけど。ソレはソレ、これはこれと。
「挨拶、か」
「そ。ほらこういうことはちゃんとしといた方がいいかなとか思ったんだ。っていうか、まぁ単純にセリスの両親がどんな人たちか気になっただけだけど」
「わたしの両親?」
「あぁ。セリスを産んでくれたから、セリスと出逢えることができた」
 不意にそんなセリフを言われて、顔が赤くなるのが判った。そんな顔を見られたくなくて、顔を伏せて髪を梳く手を早めてみる。
 こんな風に突然甘い顔でそんなセリフを言うのはズルイを思う。未だに慣れない。
「どうした?」
「なっ、なんでもない」
「ふうん?」
「それより、ロックの両親は? わたしも挨拶とかしたいし」
「あぁ。俺の親、もういないんだ」
 弾かれたように顔を上げると、鏡越しに苦い顔のロックが見えた。
「俺が14,5の時かな。2人とも事故で」
「そう、だったの」
 そっとドレッサーから離れると、ロックの隣に座った。少し固めのベッドでも、わたしの体重で少しだけ体が沈む。
「でもまぁ、もう昔のことだからな」
「そっか。……ねぇ、いつかお墓に連れて行ってくれる?」
「もちろん」
 ロックはわたしと目を合わせて、優しく笑った。出逢った頃と変わらない、安心してしまうような笑顔。
「でさ、セリスの両親は?」
 話が元に戻ってしまった。と、言ってもロックに嘘や誤魔化しをしても仕方ないので正直に話そう。
「えっと。ホントに知らないの」
「セリス?」
「わたし、気がついたら既に帝国にいてずっと訓練とか勉強とかしていたから、知らないの。自分の親がどんな人たちだったか、親ってどんなものなのか」
 朝早くから、夜遅くまで。ひたすら訓練だった。基礎的な帝国についての学習から魔法についての学習。体力づくりから本格的な戦闘訓練。あそこで生きていく為に必要だったこと。そこに、両親の愛情なんてものは、欠片も必要なかったから。
「だから、ごめんね。挨拶、できなくて」
 そう言った瞬間、ロックに抱きすくめられて身動きがとれなくなる。背中に回された腕が強くて、戸惑ってしまう。
「ロック?」
「ごめんな」
「あっ、気にしないで! っていってもロックなら無理かもしれないけど。でも、ほら。それがわたしにとっての当たり前だったから、わたしは気にしてないし」
「セリス」
「ね? だから」
 気にしないで。
 声になるかならないかの音でそういうと、更に強く抱きしめられてそのまま倒れこんだ。
 両親に対しての想いは何もない。そういうものだと想っていた。でも、どんな人だったか気にならないわけじゃない。どうして、わたしを帝国に置いていったのか、知りたくないわけじゃない。知る手段がなかっただけ。両親というものが、どんなものか、知らないだけ……。




 後ろで纏めた金色の髪が風になびいて揺れる。足元の草も揺れて、新緑のいい匂いが鼻をかすめた。とても静かで、ここにはわたしとロックしかいない。ロックが腕に抱えた大人しめの花束が風に揺られて少しだけ花弁を落とす。
 風にびくともしない冷たい石たち。そして石に彫られた名前。刻まれたその名前は、少しだけ読みにくいものへと変わっていた。
「わたしを連れてきたい場所ってここ?」
「あぁ」
 今日の朝。突然「連れて行きたいところがあるんだ」と言われて、花束を持ったロックに連れられてきたのが、マランダの近くにある集団墓地だった。先を歩くロックに着いて行くとここで止まった。目の前には、1つの墓石。刻まれている名前は2つ。
「もしかして、ロックの両親?」
 この前話していたことをもう実行してくれたのだろうか? あれから、1週間ぐらいしかたっていないのに。しかも、最近忙しそうにしていて、朝早く家を出て夜遅くに帰るっていう生活だったのに。
「それならそうと」
「セリス」
 ロックがこちらを振り向いて、手招きした。ゆっくりと足を進めて墓石を見る。
「これしか見つけられなかったけど、見て」
「…………。アラン=シェール。サリス=シェール。ここに眠る…………」
 シェール…………。
「セリスの両親は、セリスを産んですぐ事故で亡くなったんだって。それで、今はここにいるんだ。セリスを帝国に預けたのは、本心じゃないんだろう。ここまでわかるのに1週間もかかるなんて、トレジャーハンターとしての腕を疑うけどな。でもまぁ、世界が崩壊しても残っていてよかったぜ」
 柔らかく微笑みながら、墓石の前に肩膝をついて、花束を置き、胸の前に両手を合わせるロック。その光景をぼんやりと見る。いまいちピンとこなくて、どうしたらいいかわからない。何を考えていいかわからない。
「俺は……ロック=コールって言います。セリスを。娘さんと結婚しようと思います。絶対に幸せにします。何があっても」
 強くしっかりとした低い声。ロックが語りかけるのは、墓石。わたしの、両親の前。
「セリスは、俺が、守るから」
 わたしがロックに連れられて屋敷から脱出する時にも言われた言葉。あのときはそれが、不思議で仕方なく、そして信じられなかった。でも、今は、今は違う。
 ロックに近づき後ろからそっと抱きしめた。
「セリス?」
「……っ」
 胸が詰まって、言葉が出てこない。何を言えばいいかわからない。言葉の代わりに、ロックを強く抱きしめた。
 ありがとう。嬉しい。哀しい。切ない。いろんな想いが駆け巡って、何も言えない。言えないから、行動に出る。そして、強く強く自分に誓う。この人と一緒に生きようと。この人と、幸せになろうと。
 両親の想い出はなくとも、これからロックとたくさん家族としての想い出を作ろう。いつか、子どもたちが思い出してくれるように。想い出に、のこるようにと。





〜後書き〜


え〜。しっとりラブラブ、といった感じでしょうか。
久々の更新がこんなのですみません・・・。今回は2周年記念ということで、投票のありましたロクセリものをアップさせていただきました。
ご入用の方、いられるでしょうか?(汗) もしいられたら、配布も考えているのですが・・・またわたしの独りよがりだとなんともいえないので今のとこ考え中です。
と、いうことであまりぐだぐだ書いても仕方ないのでこの辺で。
今回好き勝手書いたので設定など違っていたらすみません。
また感想とかございましたら、メールや掲示板で気軽にどうぞです。

2007年5月19日アップ

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